折角来たんだもの、頼朝さんの方にも挨拶していこうと思います。
日差しが斜めになってきたし、
以前、この近くの化粧坂で怖い思い ( 何やらくっつけてきちゃった ) をしたので、
今日は早々に引き上げます。
北鎌倉への道は、葛原岡神社の脇らしいので、もう一度神社に戻ります。
もう、坊やとお母さんの姿はありませんでした。
ハイキングコースを歩き出すと、同年代のご婦人に声をかけられました。
「さっきの坊やは、もう帰られたんですか?」
にゃんこ遊びも、無患子の時も一緒だったので私のことを “ 坊やの連れ ” と思ったようです。
「いえいえ。たまたまここでお会いしただけで、知らない同士だったんですよ」
「ああ、そうなんですか。
私は一緒に来たお友達と帰りが逆なんで、こっちにひとりで帰るんです」
思い出しました。
坊やとにゃんこ遊びをしているのを見て、笑ってた3人連れの女性がいたけれど、
彼女はその おひとりでした。
方向が同じなので、ご一緒することに
彼女は北鎌倉在住で、ここへはよく来られるらしい。
「ねえ、あっちが新道なんだけど、もし良かったら古いルートご案内したいの」
「是非是非、おねがいします」
楽しそうに案内してくださる彼女の後について行きました。
ほんのちょっと迂回するだけなのに、こっちの方が景気もいいし登りやすい。
流石! 地元っ子!!
キュンキュンキュンと、妙な声が聞こえてきました。
「あれはリスの声。警戒している時の声ね」
「へぇ~。やっぱり お詳しいですね」
「鎌倉に住んでれば、リスはいつでも見られるから。見られるという迷惑の種なのよ」
「悪さとか、するんですか」
「家が傷むのよ。屋根裏に入り込んだり戸袋に入り込んだのを、尻尾つかまえて、
引っ張り出したことも一度や二度じゃない」
リスの尻尾の感覚が想像できて、笑ってしまいました。
「見た目で差別したらいけないけど、シマリス好きだけど台湾リスは可愛いいと思えないんですよね」
「あらそうなの、あははは」
あはは、うふふ、と笑いながら道を下っていきました。
折角、鎌倉在住の方とお近づきになれたので、
日頃 思っていたことを お話ししました。
「私ね、鎌倉には結構頻繁に来るけれど、鎌倉で嫌な思いをしたこと一度もないんです。
今日もそうです、地元のご婦人に道を教えていただいちゃいました。
『すみません』って こちらから訊ねて教えてもらうパターンはあるでしょうけど、
困った顔してるのを察して『お困りですか?』と、近づいてきて教えてくれるのは、
稀です、鎌倉だけですよ多分。
例えば居住区の路地に迷いこんだとするでしょう?
もし私が逆の立場で住民なら、不審者?と胡散臭い顔しちゃうだろうなぁ。
迷惑そうにしてしまうこともあるかも知れない。
あっ、それは私が人間が出来てないってことなんでしょうけど (笑)
でも鎌倉の人って、大人で親切で。気持ちに余裕があるっていうかしら、
お金の問題じゃなくて豊かな心の持ち主が多い気がするんですよ」
「凄くわかるわ。
豊かな心ねぇ、そういう人確かに沢山いるわね。
なんだろう、May I help youの 精神は、昔から根付いてるかも知れないな。
でもそんな特別なことじゃないんじゃないかしらね。
去年の震災の時。世の中も《観光どころじゃない》から、鎌倉もひっそりしちゃったのね。
そうすると、セイセイするかっていうともう自分の街じゃないみたいで落ち着かないのよ。
空間が広すぎるっていうのかしら、寒い感じがして、とても居心地悪かったわ」
そうなんだ。
自分の住んでいる街に、観光客がいるのが当たり前なんだ。
「それとね、鎌倉の人って、ホントに自分の街が好きなんだと思うの」
「なるほど。『ねぇ、素敵でしょうこの街、こんな良いところもあるのよ、見て見て』って感じ?」
「そうそう」
「市民全員が、観光親善大使なんだ」
「 (笑) 全員ってワケじゃないけどね、そういうとこあるわね」
そう言って大使(彼女)は笑った。
道すがら、観光ガイドには載っていない穴場を教えてくださいました。
「ここは、小倉遊亀という女流作家が住んでいらしたお家の門」
「この辺りは、鎌倉らしい感じがよく残っているから、ドラマでも使われるのよ。」
浄智寺の、ベストアングルまで教えてくださった。
こんなに色々と宣伝してくれる地元住民なんだから、
“ 拝観料が無料 ”とか、“ 地元料金 ” とかあっても良さそうなものだと思いました。
〇〇寺は拝観料の割りに見るべきものがないとか、こっちは春がオススメだとか、
話が尽きない中、北鎌倉まで来てしまい、
後ろ髪を引かれつつ、大使と私はお互いの名前も告げずに別れてました。
帰りに、鎌倉駅で食べたロンディーノのカレースパゲティ⤵
「袖擦り合うも多少の縁」
帰宅して大使の話をしたらMOURI に
「相手の名前は聞かなくても、せめて自分の名前だけでも名のればよかったのに」
と、言われました。
そうかも知れないね。
でも、またあそこに行ったら会える気がするの。
坊やにも、お母さんにも、そして大使にも。
それでいいと思っています。
「鎌倉に住みたい、それが夢なんです」 そう言うと、大使は言いました。
「鎌倉に住むなら、ふたつ覚悟が必要よ。湿気と虫」
なんかワタシの苦手、見透かされてる?
もしかして彼女は、観光親善大使じゃなくて、女神さまだったのかも知れません。